アジア通貨危機
アジア通貨危機は1997年7月にタイを中心に始まりました。そしてアジア諸国にも波及し、特に経済的に打撃を受けたのがインドネシア、韓国。続いてマレーシア、フィリピン、香港と影響を受け、中国、台湾、日本となると、それほどの直接の影響は受けなかったようです。
ちなみにタイがどのくらいの影響を受けたかというと、まずタイの通貨であるバーツが約半年間でドルに対して半分の価値になり(日本円であれば90円/ドルが180円/ドルになるということ)、株価も半値になり、タイ政府、中央銀行、IMFがいくらお金を出しても追いつかない状況でした。
この原因を作ったのがジョージ・ソロス含むヘッジファンド。
1990年代前半、タイは年率9%の高成長を続けていました。その経済成長の根底にあったのは固定相場制。アルゼンチン危機の時のアルゼンチンや今の中国のようですね。
固定相場制を取ることで、為替は安定していて、為替リスクもないため、外国企業は安易にタイへ投資をすることができます。しかし、1990年代後半になって、世界はさらに人件費の安い中国へ投資をシフトしだし、それまでペッグ(固定)していた米ドルも、それまではドル安だったのでよかったのですが、1995年以降から強いドル政策を取るようになってきました。ペッグ先である米ドルの価値がその他の国の通貨に対して高くなると、必然的にタイバーツも高くなります。バーツが高くなるということは、タイへの投資が高くつくようになり、タイの経常赤字が悪化していったのです。
そしてそこに目をつけたのが前述したジョージ・ソロス率いるヘッジファンド。固定相場制というのは、資本主義ではいつか終わりを告げるものであり、この時期のタイのバーツがまさにその状態でした。タイ政府はバーツを切り下げる(変動相場制にする)しか、経済対策としてできることがなかったのです。しかし腰の重いタイ政府に対して、論理的に投資を進めるヘッジファンドは、先行してタイバーツに対し空売りを始めました。
固定相場制というのは、今の日本の為替介入と同じように、その国の中央銀行(指示するのは政府)が自国通貨を自分たちで売買することで、固定相場が保てるのです。つまりヘッジファンドが大量に空売りを仕掛けた時に、タイの中央銀行は固定相場制を維持するためにどんどん自国通貨を買い戻さなければいけません。しかしヘッジファンドに比べて資金量の劣るタイ中央銀行は、買い支えることができなくなってしまったのです。結果、どうすることもできず変動相場制へ移行し、タイバーツの価値は半分になりました。
そしてタイバーツの価値が半値になって、何が問題だったかというと、アルゼンチン危機と同じように、今回は国ではなくタイの国内銀行が外貨建てで借金をしていたのです。つまりタイバーツの価値が半値になるということは、外貨の価値は倍になりますから、借金が一気に倍になったということです。これにより、タイの銀行は破綻の危機となります。
銀行が危機的状況になるというのは、2年前の米国金融危機の記憶が鮮明だと思うので、理解しやすいと思います。つまりすべての産業に波及し、一気にレセッション(景気後退)となります。
この事象は、今後の中国の動向、ヘッジファンドの動向、日本の動向にとても参考になると思います。これらの教訓があり、中国は外貨準備高を大量に貯めているわけですし、変動相場制にすることを懸念しているのです。
あと一つ付け足しておくと、ジョージ・ソロス含むヘッジファンドは何も悪くありませんからね。彼らは投機家(スペキュレーター)と呼ばれ、時折このように大量に仕掛けてきます。グローバルマクロ戦略と言われ、対象は世界中のあらゆる資産です。
たしかにヘッジファンドは世界の誰よりも優秀で、金融をよく理解し、世界中の資産を集め運用し、彼らのために絶対収益を出すよう努力します。その結果、このタイバーツのように、ヘッジファンドよりも先に自国の経済のことを理解し、対策を取っていればよかったものを、ヘッジファンドに教わって、しょうがなく重い腰を上げているところが痛い目をみるのです。ヘッジファンドは経済の膿を取り出しているだけです。膿を放置したタイが悪いと思います。
そしてこの状況が今の日本。膿をわかってても放置している政府です。ドル円相場も82円台になるまで放置してありました。為替でなく、国の借金を見れば、この10年で膿が倍に膨らんでいるわけですから、誰かが「手術」をすべきでしょう。皆さんもその「膿」に気づいているのであれば、自分自身で対策をしておいてくださいね。
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