月末最終日の商い ~野村證券物語
私が野村證券を辞めたのがリーマン・ショックの前日だったため、もう辞めてから3年半くらいたつこともあり、野村にいた時のことを思い出すことがほとんど少なくなって来ました。そのためこの『野村證券物語』も久しく書いていなかったのですが、たまに元同僚や今野村で働いている人の話を聞くと思い起こされることがあったので、書いてみようと思います。
野村には毎月の目標数字というノルマがあり、それを達成することだけが使命だということはすでに言わずと知れたことですが、これがおそらく世間一般の会社とはことさらこだわりが違い、月末最後の日まで徹底的に目標数字にこだわります。
例えば先月(1月)だと最後が1月31日。皆さんご存知かどうか知りませんが(投資家にとってはどうでもいいことなので)、皆さんが今一番投資することになっている(証券会社の誘導により)投資信託ですが、ほとんどのものは約定日がその日ではありません。例えば、主に以下のようになっています。
国内株投信:同日約定
外国株投信、外国債投信など:翌日約定
バランス型投信など:翌々日約定
要は売買できる日が日本国内の資産であればその日にできますが、海外だと時差の関係で翌日に、さらにバランス型や世界の投資対象物に投資をしているものなどになると、すべてのディールを終えるのに2日くらいかかってしまうため、皆さんが投資をしたいと言って注文を出したとしても、翌々日の基準価額でしか購入ができないことになります。
つまり営業マンサイドから見ると、1月31日になってその月のコミッション(数字)にしたいのであれば、投資信託はほとんど対象ではない、ということになります。では月末最終日になってどうやってコミッションをあげるための商いをするかというと、日本株や外債などを売買するしかないことになります。
「いやいや、そんなこと言ったって、最終日に買い材料にならないこともあるだろ。」
「本当は投資信託のほうがいいと思えば、翌月になったってそのほうがいいだろ。」
と考えるのはまともな個人投資家。ノルマに追われる証券マンはそんなことは関係ありません。たいてい無理なノルマを課されているため、月末になってもノルマはまだまだ残っています。そうなるとフロアの一番前のホワイトボードにでかでかと赤字で残りの数字が書きこまれ、分単位でそれが消し込まれていきます。バナナのたたき売りのように(笑)。そんな状況下で、手数料の低い株で収益をあげようとするわけですから、相当の件数の顧客に連絡をして、どんどんオファーしなくてはいけません。結果、ずっと会社に残らされて(外交へ行けない、アポを取らせてもらえない)、電話の受話器を置くこともいけないような空気になります。
その日の前から営業マンは皆げっそり。いくら個人の数字をできている営業マンがいたとしても、
「自分さえよければいいのか!?」
という口実の下に、結局は同じように無理な商いをさせられるのです。そしてノルマが達成された翌日(2月1日)には、ホワイトボードも真っ白となり、
「さぁ、今月の対象先(顧客)を出してくれ。」
です。地獄の日々は続きます(笑)。
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