銀行の投資信託販売につき不法行為責任が認められた事例

これは高齢者に投資信託を販売した銀行員の勧誘行為について、顧客の投資意向に反してリスクが高く、また、商品性について顧客の理解を得ていなかったとして、適合性原則違反と説明義務違反を認定し、顧客からの銀行に対する損害賠償請求が認められた事例です。(大阪地裁平成22年8月26日判決)初めて販売会社である銀行に対し損害賠償が求められました。

以下、国民生活センターの抜粋です。私が知るかぎり、同じ事例は日本全国たくさんありますので、皆さんの参考になると思います。


【概要】

原告:
X(消費者)
被告:
Y(銀行)
関係者:
A(担当支店の支店長)
B(担当した銀行員)
 Xは、取引当時79歳で一人暮らしをしていた(膝(ひざ)に障害があって歩行に支障があるため外出する場合は自動車の送迎またはタクシーの利用が必要な状態であった)。

 取引当時、約5000万円程度の預貯金があったが、夫から相続した株式を息子を通じて売却したほかに株取引の経験はなかった。

 平成20年3月、A・Bは、定期預金の満期後の運用を勧誘するため、X宅を訪問した。

 Xは、条件つきで元本が保証される、定期預金よりも高い利回りが期待できるとの説明を聞いて、その場でいわゆるノックイン型投資信託500口を500万円で購入した。

 その後もAらの勧誘を受け、5月、7月、9月にも同様の投資信託を各500万円で購入した(3月の分と合わせて2000万円)。

 購入した投資信託は、ノックイン条件付日経平均連動債を運用対象としているもので、3年の償還期間中、日経平均株価が購入時の65%以上ならば元本全額が償還され、かつ一定の分配金が入る。

 しかし、一度でも65%を下回ると、償還時の下落割合に応じた元本割れの損失が生じ、かつ、その後株価がどんなに上昇しても、あらかじめ設定された分配金しか得られないというものである(最初に購入した投資信託を例にとると、3年間保有した場合の分配金合計は元本の6・66%。ただし、早期償還条件に該当すると3年未満で償還されるので、これより少なくなる)。

 Xの購入後、株価が下落して損失が生じたことから、Xは、Yに対して、訴えを提起。主位的請求として、Yが扱っている預金と同種のものと誤信し、投資信託との認識はなかったこと等を根拠に契約不成立・錯誤無効を主張し、予備的請求として、適合性原則違反、説明義務違反を根拠に不法行為に当たると主張して損害賠償を求めた。

 なお、4本の投資信託のうち1本は訴訟中に償還となって損失が確定しているが、3本は保有を継続しているため評価損の状態である。それらの損失(分配金を控除した額)の合計額は、257万4685円となった。


【理由】

適合性原則違反について
 本件各投資信託の特性について、

(1)リスクが軽減されている面もあるが、利益は一定の分配金等に限られる一方で、損失は元本全額に及ぶことがあるから、リスクに比して利益が大きいとはいえない
(2)解約は毎月20日を受付日とする解約に限られるため、購入者は、償還日までの長期的な経済状況、株価市況の予測をしながら、購入後にも、株価の動向に注意を払う必要があるうえ、日経平均株価の動向に機敏に対応することができない
(3)償還日までに日経平均株価がワンタッチ水準(本件では、購入時株価の65%)を下回るか否かを予測することは困難で、一度でもワンタッチ水準を下回った場合には元本は保証されないので、元本保証を重視する投資家には適さない
(4)日経平均株価の変動とは無関係に目標分配額が定められており、その額が逓減することや早期償還条件が定められていること等を指摘し、高齢で取引の経験、知識のないXにとってその内容の理解は困難であるとした。

 そしてXが、元本保証を重視する慎重な投資意向であったことなども認め、さらに、販売につき、形式上Yの内部基準に合わせるため、Aらは、「Xからの申し出」として処理することにし、また、Xが「娘には言いたくない」と答えたことを口実に家族の同意確認を怠ったこと等を認定し、適合性の原則から著しく逸脱した投資信託の勧誘であるとして、適合性原則違反 を認めた。

説明義務違反について
 本件各投資信託について、一応の説明は行われていたとしつつも、Xの年齢や投資経験、知識の乏しさに照らし、「本件各投資信託は、その内容を理解することは容易ではなく、将来の株価の予測というおよそ困難な判断が要求され、また、元本割れのリスクも相当程度存在するにもかかわらず、条件付きの元本保証、という商品の特性により元本の安全性が印象づけられることから、当該条件については特に慎重に説明する必要があった」とした。

 そのうえで、Xが不安も述べずにその場で直ちに購入を決めていたことなどから、Xは本件各投資信託の内容を具体的に理解できず、そのリスクについて現実味を帯びたものとして理解 できていなかったとした。

 また、Aらは、Xが元本保証を重視していることを知っていたのに、株価予測の参考となる情報を提供しなかったことなどから、本件各投資信託の危険性をXが具体的に理解することができる程度の説明をしたとは認められないなどとして、Aらの説明義務違反を認めた。

 そして、適合性原則違反および説明義務違反による不法行為を認定し、2割の過失相殺のうえ205万9748円の限度で損害賠償請求を認め、弁護士費用20万円を認容した(契約不成立や錯誤については、複数の手続書類(約定書や確認書など) の存在や、勧誘時に一応の説明がなされていたことから否定)。


【解説】

本判決は、銀行による投資信託販売について損害賠償請求を認めた初の判決であり、また、投資初心者への勧誘、販売が行われて問題になっているノックイン型投資信託について損害賠償請求を認めた初の判決である。

 適合性原則については、最高裁判決(参考判例[1])以来、その判断枠組みを用いて判断することが多くなっている。

 本判決も、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である」という最高裁判例を引用しつつ、商品性、顧客側の事情等を相関的に考慮して判断している。

 その一つとして、Yの内部基準で、75歳以上の顧客については本人からの申し出があった場合にのみ販売が可能で、その場合でも原則として家族の同席による同意確認等が必要と定めていたのに、この内部基準を形骸化するような運用で勧誘が行われていたとして考慮している。

 しかし、本判決が適合性原則違反を認めながら2割の過失相殺をしている点には、問題がある。そもそも適合性がない場合には、十分注意すればよかったのだという根拠に欠け、過失相殺すべきではないと考えられる*1。

 控訴審(大阪高裁)では、実損額の9割に弁護士費用等を加えた金額で和解が成立した。

 なお、ノックイン型投資信託は、一定の範囲を超えて下落した場合にのみリスクがあるという意味から「リスク限定型」などという呼称で販売されることもあり、また、本件のように、販売勧誘において、しくみとリスクに関して、消費者が十分に理解するに足りるだけの説明がされたか否かが問題となることも多く、当センターも注意喚起を行っている*2。

*1 潮見佳男「投資信託の販売と銀行の責任」(『金融・商事判例』1350号1ページ)参照

*2 ローリスクと勧誘されたが、想定外に大きく元本割れする可能性が生じた「ノックイン型投資信託」(09年1月8日公表)


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