空ペロ
野村證券は注文伝票のことをなぜか「ペロ」と呼びます。これは私にも誰に聞いてもなぜかはわかりませんが、とにかく「ペロ」です。当然もう電子化の時代なので注文伝票など特別な時を除いてないのですが、数字=ペロという認識が社員全員にあるので、月の目標数字が未達だと「ペロ、ペロ」と上司から言われます(笑)。
そしてあまりにその月の出来が悪いと「空(から)ペロ」というのを出します。つまり本当に顧客から注文をもらってもいないのに、注文をもらったということで数字を上へ上げる(報告する)ことです。
これは通常の株式売買や毎日決済の投資信託などではできませんが、株や投資信託の募集物ではできてしまいます。つまり支店やその営業マンにこれだけの配分(ノルマ)があるにも関わらず、それができていないことが悪なのです。結局募集期間中にそれだけのノルマをしなければいけない(要は顧客である皆さんに買ってもらうわけですが)のであれば、だったら最初の方に社内ではすでに自分はノルマは終わったと思わせておいて、余計なつめ(野村用語で「怒られること」)をされないようにしようという社内戦略です。
これがもたらす1つ目は、その営業マンが必ずやらなければいけなくなった数字を必ずその営業マンの担当顧客(あなたたち)が背負わなければいけない、ということ。本当にいい株、投資信託ならいいですが、大多数はそうではなく単にノルマです。こうしてアドバイスではなく「販売」だけが目的の営業となります。
2つ目にもたらすのは、社内の実質の数字の管理ができない、ということ。募集締め切り日3日前になって、いきなり「実は私空ペロでした」と言ってくる営業マンが稀にいます。この場合、同じチームの他の営業マンが穴を埋めないといけない(その数字を終わらせなければいけない)ので、そのチームの営業マンの顧客にまで「無理」が波及するようになります。
3つ目にもたらすのは、一営業マン単位で必ずその「ペロ」をやり終えるという意識です。彼らの思考には「数字ができなければ諦める」という概念は1mmも存在しません(笑)。それが野村文化です。たぶんここの文化をどの会社も作りたいと思うのですが、きっと野村ほどの営業力ができないのは、この「空ペロ」文化があるからだとも思います(笑)。
とはいえ、「空ペロ」が顧客(皆さん)に与える良い点と言えば、良いIPOの時に営業マンが株数を抱えてくれる、というくらいです。一般の公募、投資信託の募集はすべて顧客にメリットは一つもありません。企業文化の維持と顧客満足の同時並行は難しいものです。