株券の3つの取得単価と持株会
そういえば、私が野村證券にいる時に、これは辞めた後にちゃんと世の中に公表しないといけないと思ったことを思い出しました。
それは「持株会」という存在についてです。
上場企業の周りには、たくさんの持株会という存在があると思います。「持株会」というのは要は従業員がその会社の株式の一部を給与の一部から買い付けていく(積み立てていく)という仕組みのものです。私も野村證券にいた時には、「野村HD」という株式を給与から天引で購入していました。たしか会社が10%か20%負担してくれるので、たとえ株価が上がっていなくてもそれだけ利益が出ているということで、それはいいな、と思い始めたのですが、結局野村證券自体が業績悪く、株価はどんどん下がっていき、私が辞めた2008年9月にはリーマンショックが起こったこともあり、私の持株会で貯めた野村HD株も見たくもない状態になりました(笑)。まぁ、そもそも最初から長くいる気はなかった会社の株式を購入しようと思わった私が悪いんですけどね(笑)。
話がそれましたが、このような「持株会」が上場企業の数だけ存在すると言ってもいいです。
そして私が野村證券の営業マンとして働いている時に問題となったのは、「株券電子化」でした。もう今となっては株券を見ること自体が懐かしくなってしまったのですが、ほんの数年前までは株券はかなりの自宅に存在しました。みんな証券会社に預けておくだけで「口座管理料」が取られたので、だったら、ということで引き出して手元に保管してたんですね。また親の代からの相続で、手元に残っているということも多かったと思います。
その「株券電子化」。実は株券を証券会社に預ける時に、取得単価(要はその株をいくらで買ったかという単価)を3つの中から選べたのです(これもおかしな話なのですが、それは置いておきます)。
1)本当の購入単価
もし購入した時の日記やメモのようなもの、もしくはちゃんとした買い付け明細がまだ取ってあればそれでもOK
2)名義書換日の終値
株券には名義を書き換えた日、というのが必ずあります。つまり誰かから「譲渡」を受けた日のことです。これは株券の裏面に書いてある名前の隣にある日付を使うことができます。しかしそれを手書きで書いていなかったとすると、いつ名義が書き換わったか?という証明になりません。この場合、信託銀行に問合せて、「株主異動証明書」というのを発行してもらい、これを証明書として使います。
3)みなし価格(2001年10月1日の終値の80%)
そして結局どれもわからない、という人はこの「みなし価格」というのを使うことになります。ここが落とし穴で、この2001年10月1日の時の日本株が決して安くはない時なのです。高く買えたんならいいだろ?いえいえ、逆です。実際は儲かっていないのにも関わらず、高い値段で買ったことにされてしまったら、購入単価が高くて損をしている人までも高い税金(キャピタルゲイン課税)を取られてしまいます。
ちょっとややこしい話ですが、一つの株券にこれだけの価格から選ぶことができるのです。となると、株券を持っている人にとってはこの3つの価格の中から一番高い価格を選んだ方が得ということになりますね。そう、高く買ったことにすれば、将来売却をした時の税金を減らすことができる(もしくは損をしたことにして無税にできる)からです。
さて話を戻して、「持株会」。彼らも本当はこの仕組を使うことができる権利があったのです。ずっと勤め上げていく会社であればいいとも思うのですが、私が付き合いのあった「電気工事組合」というところは、たくさんの事業主が集まって「電気工事組合」というのを作っていた。そしてその組合が「組合費」と「〇〇電力持株会」として資金を集めていたのです。そしてこの「持株会」で集めた資金のうちの一部を自分たちのマージンとして抜き、残り分で〇〇電力株を購入していました。
さて、今や斜陽産業のこの電気工事業界。ほとんどの事業主に跡継ぎはいませんし、そもそも仕事をまわしてくれるはずの「電気工事組合」も何も仕事をまわしてくれなくなっています。事業組合とは名ばかりの老人組織になっているのです。
そんな将来存続するかもわからない組合を介して〇〇電力株を保有しているだけで正直リスクです。しかも将来その組合が解散、もしくは自分が廃業する時に「持株会」のうちの自分の出資比率分の株を返してくれ、と言ったところで、それがちゃんとした買い付け価格で証券会社の特定口座にまわしてくれるかどうかもわかりません。なにより管理主である「電気工事組合」がそんなことに興味がないのです。そもそも彼らには証券の知識が一切無いのもそうですが・・・
「引き出した後の株券は自分たちの責任で好きにやれ」
と、ハッキリ言われた事業主もいました。
そしてこの〇〇電力株というのは、だいたい全国どこの株もそうですが、電力株というのはディフェンシブ銘柄(もしくは資産株)と言われる代表銘柄で、その名のとおり、結構株価も上昇しています。つまり売却したらかなりの利益が出るのです。そうなると、先に書いた「取得単価」をいくらにするか?というのがとても重要になります。
そこで私はその事業主の人たちに・・・
「株券を引き出して、今3つの取得単価から最も高い価格を選んで、いつでも売却できるように証券会社の特定口座に入れておいてください」
と提案しました。そしてかなりの数の方がそれを実際にされました。当然です。デメリットはゼロで、メリットしかないわけですから。しかしある時、その作業がある程度までいったころでこの「電気工事組合」から野村證券へ電話があり、STOPがかかりました。要は彼ら「電気工事組合」の持株会の〇〇電力に占める比重が低くなると、彼ら「電気工事組合」の存在意義がなくなり、仕事すら受注できなくなってくるのです。あと株投資のマージンが抜けなくなったこともあります。そもそも一部の事業主にしかまわすくらいの仕事しかないわけですし、仕事をまわしてくれてたら株券を引き出したりしないので、お門違いな話なのですが、私が勤めていた野村證券が実はこの〇〇電力の主幹事だったこともあり、当時の上の人間に・・・
「これは野村證券の社員としてはやっちゃいけない。」
と最終通告され、私もそれ以上は首を突っ込まなくなりました。野村證券の社員でしたから(笑)。しかしその時に他の証券会社(大和証券とか)の社員に伝えてでも進めるべきだったかもしれません。私も変なところで「社会人」「組織人」「サラリーマン」というのを体験してしまったのです。もちろんこれもあり、早く足を洗おうと思い出しましたが(笑)。
世の中、こういった不合理で、自分の利益(メリット)しか考えない人(特に組織)がたくさんあると思います。日弁連、弁護士会などもその典型例でしょう。あなたの周りにもすぐに思い当たるところがあるのではないでしょうか?
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